気高き国王の過保護な愛執
「私が、ガヴァネスに?」

「王立書院に要請があったのです。あなたをご指名です。私たちはあなたを誇りに思いますよ、フレデリカ」


柔和だが、有無を言わせない微笑みだった。

断ることなど許されないのだ。もとより、フレデリカには辞退する意思はなかった。求められているのなら、行きたい。


「謹んでお受けいたします」

「明朝、お迎えに参ります」

「今晩では?」


荷造りするほどの持ち物もない。すべてあの村に置いて、ここへ来た。

使者は眉をちょっと上げ、人間くさい驚きの表情を一瞬見せた。すぐにそれを消し、「かしこまりました」とうなずく。


「三日後には王都に入ります。王城に入るのにもう一日。その後、陛下へのお目通りが許されています」

「王に!」


つい大きな声を出してしまった。院長がちらっと視線を向ける。フレデリカは慌てて首をすくめた。


「承知いたしました」

「では後ほど」


使者が続き部屋に下がったのを見届け、フレデリカも辞去した。石の廊下を自室へと向かいながら、突然動き出した自分の行く末に、興味を覚えていた。

ルビオが消えてから四季が一巡した。あの後すぐにオットーが亡くなり、フレデリカはこの尼僧院へ入った。ここで生涯を終える以外の未来を、思い描いたこともなかった。

壁の高い場所に開いている小さな窓からは、空しか見えない。だがあの方向に王城があることをフレデリカは知っている。

王都へ。

考えるだけでわくわくした。

すべての物資と人と、知識と文化が集中する、王都へ。

私は、行くんだわ。


* * *


「陛下にお声をかけられるまでは口を開かないこと」

「はい」

「陛下は無駄口がお嫌いです。お返事は簡潔に」

「はい」


謁見は夕刻だというのに朝から城に呼びつけられ、湯船に漬けられ身体を磨かれ香油を振りかけられドレスを着せられ、規律を叩き込まれ、内心へとへとになりながらもフレデリカは殊勝にうなずいた。
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