気高き国王の過保護な愛執
ドレスの裾を上げ、包帯の巻かれた足首を見せる。

書物を抱えたクラウスは、フレデリカの飾らない仕草にくすっと笑い「お手伝いしましょうか?」と申し出た。


「ああでも、ディーターが妬くかな」

「ルビオはどうだか知りませんが、お気遣いなく。自分でできますから」


平然と返したつもりだが、若干頬が熱い。


「そうだ、クラウス様、お聞きしたいことが」

「はい?」


場所を探すそぶりを見せたフレデリカに、鋭く察し、クラウスは近くにある、扉のついた小部屋に彼女を案内した。


「ルビオの記憶を取り戻す努力は、行われていますか?」

「いいえ」


簡潔な否定に、フレデリカは目を見開く。


「なにひとつ?」

「本人が乗り気じゃないんです。そもそも、頭に衝撃を与えるような乱暴なことは、さすがに彼相手にはできない。取れる手立ても限られていまして」

「なるほど…」

「彼が戻ってきた当初は、私もいろいろ提案しましたよ。ですが彼は突っぱねました。そこだけは放っといてほしいと。必要な知識は身に着け、公務に支障が出ないようにするからと」


ルビオ自身は、失った記憶に未練はないということだろうか。

けれどそれでは、あまりに不安で、不便も多いだろうに。

難しい顔をして黙り込んだフレデリカは、扉の向こうで、自分を探す声がしていることに気がついた。


「あっ、いけない。すみません、今行きます!」


湯気の立った寸胴を持った侍女に呼びかけ、クラウスを振り返る。


「お時間を取らせました、失礼します」

「いつでも呼んでください、喜んでお手伝いしますから」

「"ディーター"ともそうやって、女の子遊びをしてきたんですか?」
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