気高き国王の過保護な愛執
王女がぎゅっと、王の首にしがみついた。


「もう私を避けないでね」


王の腕が、空中でしばしためらい、それから王女の背中を、きつく抱きしめた。


「悪かった」


フレデリカは、この兄妹の絆を理解した気がした。

先王が溺愛した第一王子。王妃の愛息、第三王子。そこから漏れたふたりは、孤独を共有できる、もっとも身近な相手だったに違いない。

塔の鐘が鳴った。

ルビオは青い空にそびえ立つ塔を見上げ、何事かを考えていたかと思うと、イレーネ王女を抱きしめたまま、いきなり立ち上がった。


「まずい、行かないと」

「どうしたの?」

「母上と会う約束がある。着替えなきゃ」

「ちょっとルビオ、まずは殿下を降ろしてよ」


イレーネ王女は、慌てふためくルビオの首にぶらんとぶら下がったまま、「私も行くわ」と平然と言った。


「しばらくお母さまにもお会いしていないし。フレデリカ、先に戻って着替えの用意をさせておいて」

「はい」

「それと、私も行くってことはあなたも行くってことよ」

「えっ? 王妃の御前にですか?」

「そうよ、私のガヴァネスなんだから!」


そうなるのか!

横抱きに抱えられ、「ドレスをお揃いにしない?」とのんきに呼びかける王女を追い越して、フレデリカは準備のためにパラスへ走った。振り返って返事をする。


「私は謁見などの際は、黒を着るよう決まっているんです」

「宝石なら? 私、ライムグリーンのドレスにするつもり」


フレデリカは少し考え、「ペリドットのフィビュラをつけていきます!」となかば怒鳴るように返事をした。遠く、小さくなった兄妹が、きゃっきゃっとじゃれている。

振り回されながら王女が、両手の親指を立てたように見えた。


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