気高き国王の過保護な愛執
想像した通り、彼はフレデリカに身体を洗わせることに、なんの抵抗も見せなかった。「ありがたい」と下衣を脱ぎ出そうとしたのを「そっちは自分でお願い」と慌てて止めたほどだ。

今も右腕をフレデリカに預け、日差しを浴びて気持ちよさそうに目を細めている。

どこぞの貴族の御曹司かしら、とフレデリカは想像した。

膏薬を塗った布をあて、包帯を巻く。


「緩めにしてくれないか? 腕が動かしづらい」

「動かせないようにしてるのよ。少しの不便くらい我慢して。矢の軌道があと指一本分ずれていたら、肺に穴が開いてたわ。私はかろうじて、死体を見つけずに済んだのよ」


ルビオは目を丸くして黙った。

身体を貫通した傷というのは、見た目以上に痛む。ルビオもしきりに、息を詰めて痛みをこらえる様子を見せるわりに、泣き言ひとつ言わない。我慢強い性格なのか、そういう教育を受けてきたのか。


「今日から屋敷の中に寝床を作るわ。ゆっくり眠れば、なにか思い出すかもしれない。焦らなくてもいいけれど」

「いったいぼくは、どうしてこんなになにもかも忘れてしまったんだろう」

「川の中の岩にでも頭をぶつけたのかも。ここ、盛大なこぶになってるの、気づいてる?」


後頭部をさわって教えてやると、「痛い」と彼が首をすくめる。


「なにか持ち物でも残っていればよかったんだけど。流されちゃったらしくて、なかったの」

「仕方ない」


たいして残念でもなさそうに息をつく。この状況下で、そんな無頓着さを見せる彼を、大胆と言うべきか浮世離れしていると言うべきか、フレデリカは迷った。


「たいしたおもてなしはできないけど。うちにいたらいいわ」

「ぼくが大罪人だったらとは考えないのかい?」

「大罪人なの?」

「さあ…」
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