気高き国王の過保護な愛執
太陽が真上を過ぎた頃、角度的に日が差さなくなった薄暗い回廊で、ディーターに声をかけた者がいた。ゲーアハルト卿だった。
「ご命令通り、隊は装備を解き、半数はこちらへ戻っております。二日かけて秘密裏に王城に入る予定です」
「そうか。尽力に感謝する」
重装備での行軍は、人にも馬にも負担が大きい。派遣地に辿り着くまでは、軽装でいいのだ。ディーターは一瞬のひらめきで、威容を見せつけるためだけに完全装備をさせ、予定の倍の数の兵を歩かせたのだった。
「あの急場で兵を送り出した者たちも苦労だっただろう。ねぎらってやってくれ」
すぐに返事がこなかったことで、はっとした。
狼狽を隠して振り返ると、金色の目が、射るような鋭さを放っていた。
見つめ返しても動じない。だが先に目をそらすわけにはいかない。
「…なんだ」
「恐れながら、陛下は」
「"人が変わったよう"か?」
自嘲か、強がりか、ディーターは自分の口元に、笑みが浮かぶのを感じた。
睨み合いは続き、引き絞られる緊張の糸に、ディーターのほうがこれ以上は堪えられないと思った瞬間、ふ、とゲーアハルト卿が目を伏せた。
「ご無礼をお許しください。王位に就かれて、変わらないほうが奇妙ですな」
「分隊が戻り次第報告を」
「は」
駆け出したい気持ちを抑え、回廊を進んだ。
視界の隅から、黒い装束が完全に消える。向こうの視野からもはずれたと判断するやいなや、足は冷たい石の床を蹴った。回廊の先に、塔とパラスを繋ぐ渡り廊下に出る出口が見える。
四角くくり抜かれた先に、光が溢れているのが見える。
フレデリカと暮らした家は、木の梁を通して一日中柔らかな陽光が差し込んだ。
食事は温かく、オットーと三人で、ときには村の人間も呼んで卓を囲んだ。
仕事は単純だが悪意とは無縁で、季節と結びついていた。