気高き国王の過保護な愛執
指を食いちぎられそうになりながら、樹脂の小さな塊を取り出し、女を解放する。

女は半狂乱になり、ルビオに掴みかかってきた。


「返して!」

「命じたのは、母上だな」

「お前の知ったことではないわ!」


香の影響が抜けきらず、ルビオはくらりと意識を手放しかけた。頭を振って、なんとかそれを逃がす。塊を握り込んだ拳に、女が爪を立てる。

たかが、こんな脅しで。仕損じたら死を、と王妃は命じたのだ。


「人の命を…なんだと…」


汗か、湯かわからない滴が、唇から顎を伝って水面に落ちた。

女が訝しげな視線をルビオに向ける。


「後ろ盾が欲しいのなら、おれのところへ来い」


その表情に、戸惑いが浮かんだ。


「なにを…」

「母上のもとへは戻れないだろう。ほかに身を寄せるあてがあるなら行け。ないなら、おれが寄せる先になってやる」


青い瞳が見開かれる。女が湯をかき分けて、数歩あとずさりした。金色の髪が、水中で揺れる。

女が再び、鋭い目つきを投げた。


「なにをバカなことを!」

「そうか。では消えろ」


力を使い果たし、立っているのもやっとだ。

ふ、と意識が途切れた次の瞬間、女の姿はもうなかった。もしやと思い、右手を開いてみたが、樹脂の塊はちゃんとそこにあった。

膝が崩れ、身体が沈む。

溺れる前に、上がらないと、と遠のく意識をなんとか引き戻した。

リッカ。

なぜか心が、その名前を呼んだ。
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