元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
心が痛むのと、イラっとするのと、いろんな感情が渦巻くのを懸命に抑えながら、常務の机の回覧トレイに雑誌を置く。

整然とした机。

彼の強さ、清廉さ、努力、優しさ、周囲への気遣い……、
それらを感じるこの空間が、
ここ数分の複雑な気持ちを集約してくれた。


–––––––愛おしい。

彼の存在が、愛おしい。


……あーあ。

心の中で盛大なため息をつきながら踵を返した。

出海君の家に暮らして4日。

たった4日で落ちるなんて、ちょろいな、自分。





定時でフロアを出て、ロッカーに入れておいたヴァイオリンケースを持ち、エントランスへ向かうと、ちょうど常務が外出先から戻ってきたところだった。

胸がざわめくのと、彼が私に気づいて王子スマイルを浮かべたのはほぼ同時。

必死にポーカーフェイスを保って、

「お先に失礼します」

と頭を下げて通り過ぎようとすると。

「お疲れ様でした。行ってらっしゃい」

あーもーだめだ。完璧にだめだ。

微妙な笑顔で、「行ってきます」と言って、頭を下げて、外へ向かった。



< 47 / 108 >

この作品をシェア

pagetop