元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
出海君は、少し目を見張ってから、くしゃっと苦笑した。

「好きなら、弾けばいい、かぁ」

「だって、目の前にあるのに」

「本当にね」

そう言いながら出海君がヴァイオリンケースに手を伸ばすから期待したものの、彼はケースを静かに閉めた。

ああ、事情も知らず馬鹿なこと言っちゃった。
弾けるならとっくに弾いてるっていうのに。

「ごめんなさい」

「希奈さんが謝ることじゃないですよ」

うわぁ、微妙な雰囲気……。
困った……。

「……あ、そうだ」

私は自分が背負っているヴァイオリンケースを下ろし、外側のチャックを開けて、ポーチを取り出した。
さらにそこから、封筒を取り出す。

「定演のチケットです。どうぞ」

出海君はさっきまでの雰囲気はなかったように、嬉しそうに笑って受け取ってくれた。

「ありがとう。楽しみにしてます」

……よかった。

この優しさ、気遣い、本当に好き。




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