凪ぐ湖面のように
エピローグ
「えぇぇぇ!」

帰国して一週間。相変わらず多忙な毎日だが、湖陽さんと私は順調に愛を育てている。

「これって本物ですか!」

さっきから叫んでいるのは夕姫さんだ。

新作が出来上がったので、かねてより渡そうと思っていたサイン本を渡したところ、こんな反応を貰ってしまった。

「岬さんが……」と著書と私の間に視線を行き来させ、「ミサキ先生!」とまた叫ぶ。

デジャヴ? 二日前、私は初めて編集社を訪れ、担当編集者ナルシストK様に会った。その時もこんな反応を頂いた。

突然カミングアウトし出した私に湖陽さんはご機嫌斜めだ。

「岬のあれこれを知っているのは僕だけでいいのに!」

そんな独占欲丸出しの発言を繰り返している。

ナルシストK様はダンディな中年の男性で、会談の末、私の正体はこのまま謎にしておこうと決まった。が、バレたらバレたで隠す必要無しとも言われた。

「絶対にバラしません!」

夕姫さんが宣言する。

「だって、ファン心理としたら謎が謎を呼ぶ、なんです」

イマイチよく分からない理由だが、どうやらこのまま覆面作家でいられるらしい。
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