凪ぐ湖面のように
06)湖の姫物語
結局、その日は太田のおじいちゃんの所へ行けなかった。

「機嫌直して、来週の定休日に連れて行ってあげるから」

湖陽さんが帰宅途中の車内でそう言ったが、私は心密かにその言葉を無視して、明日、一人で聞きに行こう、と画策していた。

そして今日、計画通りアポイントを取り、太田邸に愛車を走らせた。

太田邸は邸宅と呼ぶに相応しい豪邸だ。広大な農地の中央に威風堂々と建っている。

見た目は武家屋敷みたいだが、内装や仕様は近未来を意識しているのかハイカラなものだらけだった。今回で三度目の訪問だが、まだまだ探検しがいのあるお宅だ。

「太田のおじいちゃん」

高価そうな車が並ぶ駐車場に愛車を停め、「着きました」と電話をする。すると「温室で待っている」の返事。

温室と言っても家庭用の小ぢんまりしたものではない。
植物園として解放したら、と提案したいレベルだ。

「おお、久し振り」

太田のおじいちゃんは、私がハワイアンスペースと名付けた場所で、アイとレンにバナナをあげていた。
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