ひとはだの効能
「遊馬くんごちそうさま。岸川先行ってるぞ」

「ありがとうございます」

 会計を済ませ、菅井さんがドアノブに手を掛ける。慌てて席を立つ香澄さんをチラリと横目で見て、「そんなに慌てるな、ちゃんと待ってるから」と小さな笑みを零した。

 香澄さんと菅井さんは、俺が案じていたような関係ではなかったけれど、やはり菅井さんは、香澄さんに対して特別な感情を抱いていたのだと思う。

 ひょっとしたら、その気持ちは今でも……。

「菅井さん」

 ドアを開け、潮の香りと共に店を出ようとした菅井さんのことを小声で呼び止めた。

「うん?」

 俺に対して複雑な気持ちを抱いてないわけがない。それでも菅井さんはそんなことをおくびにも見せず、俺に気持ちの良い笑顔を向ける。

「香澄さんのことよろしくお願いします。仕事中は、どうしても俺は彼女に何かあっても助けてあげられないから」

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