ひとはだの効能
「……いらっしゃい、香澄さん」

「こんにちは、遊馬くん」

 店に入って来たのは、香澄さんだった。いつものパンツスーツ姿に、右肩にはキャメルのトートバッグ。営業の合間に寄ってくれたんだろう。

「どうしたの、今日は。休憩? それともメニューのことで?」

 キッチンを出て、香澄さんをカウンター席まで案内する。

「あー……。どっちも、かな」

 真ん中の席に座ると、香澄さんは上目遣いで俺の顔色をうかがうような素振りを見せた。

「前回さ、菅井が結構容赦なかったでしょう。気を悪くしてないかなってちょっと心配になって」

「心配してくれたんだ」

「そりゃ、まあ……」

 目の前の香澄さんが、情けなく眉毛を八の字にする。

「遊馬くんがお店のこと一生懸命なの、私はずっと見てたからさ」

 「ホント、ごめんね」としょんぼりとする香澄さんの姿に、思わず口元が緩んだ。
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