夏の忘れもの
「あ、そういえば……遠距離恋愛になっちゃうね」
私は東京、彼は大阪。新幹線を使えば片道三時間ほどだが、会いたいときに会える距離ではない。
ちょっと寂しいけど、仕方ないよね。結婚を前提にって言ってたし、いずれ私もこっちに住むことになるのかな。
知らない土地は不安だけど、松坂がいれば……。
「大丈夫。俺、半年後に東京の本社に異動になるから」
そんなことを考えていた私は、彼の言葉に顔をあげた。目を丸くする私に、彼はニッコリと微笑む。
「転勤てこと?」
「うん、だから遠距離は半年だけ。それに、引き継ぎとか家探しとかでしょっちゅう東京に行くから、そんなに寂しい思いはさせないと思う。ていうか、俺が耐えられない。それでさ……」
「ん?」
「一緒に、暮らさない?」
「え?」
思いがけない提案に驚く私を彼は真剣な目で見つめて、甘えるように上目遣いで顔を覗き込んでくる。
「ちゃんとご両親に挨拶に行くし、ズルズル同棲を長引かせたりしない。だから、ダメ?」
うぅ、この顔ずるい。どうも私は、松坂に甘えられると弱いらしい。