夏の忘れもの
「うん。だから、江川くんは早く飲み会に行きなよ」
彼狙いの子は多いのだ。今日の飲み会でもみんな彼を待っているだろうに、こんなところで油を売っていていいのだろうか。
「嫌です。松井さんの彼氏さんに興味あるんで、ついて行きます」
「なんでよ。いいから、もう行きなって。かわいい子たちが首を長くして待ってるよ」
「松井さんのほうがかわいいです。なんて言われてもついて行きますから。ロクな男じゃなかったら、奪ってやる」
なんか、すごいこと言われた気がするな。でも、聞こえなかったことにしよう。
気のある素振りを見せたことなどひとつもないのに、どうしてここまで私に執着するのか、まったくもって謎だ。
「高校の同級生でしたっけ。十年ぶりに会ったんでしょ? いい加減、隠れてた嫌なところが見えてきたりしないんですか?」
「ないよ。むしろ、前より好きになってます」
しかし、困ったな。こんなところ、将大に見つかったらえらいことに……。
江川くんをなんとかしなければと考えていると、前方から目を引く長身の男性が歩いてくるのが見えた。