亡国の王女と覇王の寵愛
第一章

滅びの国

 祝砲の音が聞こえる。
 クリーム色の絨毯が敷き詰められた広い部屋の中央で、グスリール王国の王女レスティアは、お気に入りの侍女達に囲まれて式典の開始を待っていた。
 陽光を照らして輝く金色の長い髪。まるでエメラルドのように透明な輝きを持つ大きな瞳。手足は細く、血が通っているとは思えないくらい白い。
 彼女のほっそりとした肢体を包むのは、華やかな薄紅色のドレスだ。その淡い色が、王女の肌の白さをさらに強調しているように見える。金色の髪と宝石のような瞳が、その雰囲気を気品に満ちた美しさに変えていた。
 レスティアは、幼い頃からあまり丈夫な身体ではなかった。そのせいで今まで一度も王城の外に出たことはなかったが、彼女の姿を垣間見た王城勤めの者から噂が広がり、その美しさは国内に広く知られるようになっていた。年頃になった今となっては、一目でもいいからその姿を見たいと焦がれる崇拝者が大勢いた。
 けれどレスティアはこのグスリール王国の唯一の王女であり、時が来ればこの国の女王となる身だ。多くの者にとっては、けっして手の届かぬ高嶺の花だった。
 グスリール王国は、領土さえあまり広くはないものの、この大陸では特別な存在だ。
 今年で建国七百年を迎える歴史は大陸でも最古であり、これほど長く続いた王家は他には存在しない。だがその王家も年月を重ねるほどに少しずつ人数が減り、今となっては直系の血筋で王位継承権を持つのは、レスティアだけになっている。その王女が少し身体が弱いとあっては、国王の過保護、そして溺愛ぶりは少し度を超えたものだった。
 王女のためだけに存在するいくつもの部屋に、多くの侍女。毎日着替えても有り余るドレスに、しまいきれない数の宝石。とくに王女の目の色と同じエメラルドは、あまりの多さに宝石箱には収まらず、そのまま部屋の調度品の上に無造作に置かれているくらいだった。溺愛され、大切に育てられた王女には叶えられなかった願いなど、今までひとつもなかった。
 そんなグスリール王国の、今日は建国七百年の式典である。
 各国の要人を招いての大がかりな式典は、もうすぐ執り行われる予定であり、今日は国内だけの賑やかなお祭りのようなものだった。
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