亡国の王女と覇王の寵愛
 彼は自分にも罪があると言っていた。この覇王でも、少しは罪の意識を感じているのかもしれない。
「願えば、叶えてくれるつもりですか?」
「そうだ。お前が本当に望むことを言ってみろ」
 彼はレスティアを殺すつもりはないと言っていたが、ここで死を望むと言えば叶えるだろう。
 敵国に囚われ、屈辱的な囚われの生活を強要され続けるくらいなら、と思っていた。
 それなのに彼が告げた、罪という言葉が、悲劇の王女を気取るつもりかという言葉が頭から離れない。
 真実を知りたい。そうしなければ、死ぬことさえできない。
 迷ったのはほんの一瞬だった。
 レスティアは顔を上げ、ジグリットを見つめる。
 彼の言葉がすべてとは限らない。
 レスティアを懐柔し、利用しようとしているのかもしれない。
 だがそれでも、彼が何を思って祖国に攻め入ったか。どうしてあの国は滅びなければならなかったのかを知りたい。
 それがたったひとり残されたレスティアの使命なのかもしれない。
「あなたの言っていることが正しいのか、それとも間違っているのか。それを自分で確かめることができる、知識を」
 敵国の王にこんなことを頼まなければならないのは屈辱だった。
 だがもうグスリール王国は存在しない。そして自分ひとりの力では、真実に辿り着けるかどうかわからない。今は手段など選んではいられなかった。
 レスティアの言葉を受け、ジグリットは立ち上がった。
 つい、その姿を視線で追ってしまう。
 それは立ち振る舞いだけではなく、あの目立つ色彩のせいかもしれない。闇に慣れてしまった目に、あの赤い髪は強烈すぎる。
「それがお前の望みか?」
 正面から見据えられ、その視線の強さに少し怯みながらも、レスティアはこくりと頷く。
「やはりお前は興味深い女だ。己の存在を否定する言葉を受け入れる者など、そういない」
 楽しげにさえ聞こえる声だった。
「だが真実は、ときには死よりも残酷だ。知りたくなかった事実までお前に突きつけることもあるだろう。覚悟はできているのか?」
「グスリール王国が滅んだことよりも残酷なことなんて……。ありませんから」
「わかった。付いてこい」
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