亡国の王女と覇王の寵愛

真実

 即答したレスティアに満足そうに頷き、ジグリットはそのまま部屋を出て行く。
 監禁されていたこの場所から出られるとは思わず、レスティアは躊躇う。でもそれを振り払って足を踏み出した。
(ここは敵国。油断しては駄目)
 そう自分に言い聞かせながら、その後を歩く。こうして並んでみると、彼は随分と背が高い。ジグリットは慌てた様子で駆け寄る警備兵を手を振って追い払い、そのまま振り返ることもなく歩き出した。
 レスティアが逃げ出すとは、微塵とも思っていない様子だ。もちろんレスティアにも、ここで逃げ出すような無様な真似をするつもりはなかった。
(もう失うものは何もないから)
 決意を固めるように掌をきつく握り締め、周囲の視線に臆することなく歩き出す。

 広い王城は、意外にも質素な造りだった。
 白を基調とした建物。
 目立った色彩は縦長の窓に施されているステンドグラスくらいだろう。警備面では不利だろうに、窓が多いのも印象的だ。この北国では太陽の光は貴重なのだろう。
 ただ足下に絨毯は敷かれていない。石造りの床を歩く足音が高い天井に反響して、これが防犯の役目を果たしているようだ。
 どのくらい歩いただろう。
 王城深くにあるひとつの部屋で、ジグリットはようやく立ち止まった。
(ここは?)
 長く歩いたにも関わらず、ほとんど動き回ったことのないレスティアでも息が上がっていない。あとを歩くレスティアを気にするようなしぐさに、彼が歩調を合わせていたのだと気が付いた。
 仇に気遣われるのは屈辱のはずなのに、この誰にも屈しないような威風堂々とした王が気遣ってくれたのかと思うと、複雑な想いだった。
 レスティアが傍まで来たのを確認すると、彼は扉に手を掛けた。
 軋む音もなく開いた扉の向こう側に、その姿が消える。
 中を覗き込むと、そこは今まで監禁されていた部屋よりも広い部屋だ。
 広いだけではなく大きな窓はあるし、部屋の中には淡い色の絨毯も敷き詰められている。充分な広さがある寝台も柔らかそうだ。
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