亡国の王女と覇王の寵愛
祖国の名前を口にすると、ミレンは少し顔を顰める。
「痛ましい歴史の国ですね。あれほどの悲劇があった国は他にはないでしょう」
「悲劇?」
祖国で学んだ歴史を思い返してみても、悲劇と呼ばれるほどのことがあったとは思えない。首を傾げるレスティアに、ミレンは今まで読んでいた本をぱらぱらと捲った。
「ええ。グスリール王国の歴史は古いですが、その中でも際立った悲劇は百五十年前の革命未遂事件でしょう。たしかに国家転覆は重罪ですが、当時の国王は直接関わりのなかった一般市民までも処刑しています。革命者と同じ村の生まれだった。ただそれだけで、何十名も処刑してしまったのですから」
「……そんな話は、聞いたこともないわ」
建国したばかりの古い話ならともかく、百五十年前の歴史を王女のレスティアが知らないはずがない。思わずそう声を上げると、ミレンは怯むどころか深く頷いた。
「そうでしょうね。歴史を捏造するのも、権力者がよく使う手段です。ですが、それがさらなる悲劇を生んでしまう。グスリール王国が滅んだのは、この歴史を隠してしまったからかもしれません」
「……歴史」
グスリール王国が滅んだのは侵略されたからだ。
それはこの国のせいであって、歴史など関係ない。
そう言いたかったが、初めて聞く祖国の暗い歴史が、レスティアを躊躇わせる。
(いくら隠蔽されていたといっても、私がそれをまったく知らないなんて……)
それが真実とは限らない。
だが何の理由もなくそのような話が伝わるだろうか。すべてではなくとも、その中には真実が隠されているのかもしれない。
「グスリールの歴史書について教えて欲しいの。できれば、この国だけではなくて他国で書かれたものはすべて」
「はい。すぐに」
ミレンは初めて来た場所とは思えないほど、手際良く本を選んで机の上に置いてくれた。それはかなりの量になっていて、いずれはすべてに目を通すつもりだったが、今はその百五十年前の事件が書かれている箇所を見つけて読んでいく。
小さな反乱があって、直ちに国軍によって鎮められたと書かれたものもある。ミレンの言うように、関わりのない女や子どもまで無残に処刑したと書かれている歴史書もあった。
(……歴史はひとつではないのかもしれない)
どの立場で書かれたものなのか。それによって記述されている事実がまったく違う。ミレンの言うように、権力者は歴史までも道具として使ってきたのかもしれない。
「痛ましい歴史の国ですね。あれほどの悲劇があった国は他にはないでしょう」
「悲劇?」
祖国で学んだ歴史を思い返してみても、悲劇と呼ばれるほどのことがあったとは思えない。首を傾げるレスティアに、ミレンは今まで読んでいた本をぱらぱらと捲った。
「ええ。グスリール王国の歴史は古いですが、その中でも際立った悲劇は百五十年前の革命未遂事件でしょう。たしかに国家転覆は重罪ですが、当時の国王は直接関わりのなかった一般市民までも処刑しています。革命者と同じ村の生まれだった。ただそれだけで、何十名も処刑してしまったのですから」
「……そんな話は、聞いたこともないわ」
建国したばかりの古い話ならともかく、百五十年前の歴史を王女のレスティアが知らないはずがない。思わずそう声を上げると、ミレンは怯むどころか深く頷いた。
「そうでしょうね。歴史を捏造するのも、権力者がよく使う手段です。ですが、それがさらなる悲劇を生んでしまう。グスリール王国が滅んだのは、この歴史を隠してしまったからかもしれません」
「……歴史」
グスリール王国が滅んだのは侵略されたからだ。
それはこの国のせいであって、歴史など関係ない。
そう言いたかったが、初めて聞く祖国の暗い歴史が、レスティアを躊躇わせる。
(いくら隠蔽されていたといっても、私がそれをまったく知らないなんて……)
それが真実とは限らない。
だが何の理由もなくそのような話が伝わるだろうか。すべてではなくとも、その中には真実が隠されているのかもしれない。
「グスリールの歴史書について教えて欲しいの。できれば、この国だけではなくて他国で書かれたものはすべて」
「はい。すぐに」
ミレンは初めて来た場所とは思えないほど、手際良く本を選んで机の上に置いてくれた。それはかなりの量になっていて、いずれはすべてに目を通すつもりだったが、今はその百五十年前の事件が書かれている箇所を見つけて読んでいく。
小さな反乱があって、直ちに国軍によって鎮められたと書かれたものもある。ミレンの言うように、関わりのない女や子どもまで無残に処刑したと書かれている歴史書もあった。
(……歴史はひとつではないのかもしれない)
どの立場で書かれたものなのか。それによって記述されている事実がまったく違う。ミレンの言うように、権力者は歴史までも道具として使ってきたのかもしれない。