亡国の王女と覇王の寵愛
「レスティア様?」
「いえ、あの。……イラティ様があの部屋から出されたときは、どんな様子だったのですか?」
 その問いに、イラティは少し考え込むようにして首を傾げる。
「私は祖国で戦乱を前にして気を失ってしまい、気が付いたらあの部屋に閉じ込められていました。ただ恐ろしくて食事も喉を通らず、毎日泣いていたように思います。身体がすっかり弱ってしまって、倒れたところを今の部屋に移されたのです。私が逃げようとせずにおとなしくしていたので、出してくれたのでしょう」
 彼女は、思い出を辿るように遠い目をしていた。
「開放的な部屋で過ごし、少し気分も回復したところで、ジグリット様が尋ねてきました。どうして国が滅んだのかわかるかと聞かれ、私は弱かったからと答えたのです。そうしたらジグリット様は、自国の歴史をもっと知るように、と」
「……そうですか」
 レスティアは俯いた。
 国が滅んだ理由を尋ね、歴史を学べと言われたのは同じだった。
「それで、イラティ様は?」
「……滅びた国の歴史にはもう意味はないと、そう言いました。ジグリット様もそれ以上勧めることはありませんでしたが、レスティア様は言われた通りになさっているのですね」
「彼に言われたからではありません」
 山積みになっている資料を見つめ、レスティアは毅然と顔を上げた。
 そう、これは自分の意志だ。
「私が、そうしなければならないと思ったからです。今までの私は、あまりにも無知でした」
 その言葉を受けてイラティは曖昧な表情で笑った。この件に関しては、彼女とはわかり合えないかも知れないと思う。
 ジグリットならばどう答えるだろう。
 ふとそんな考えが浮かび、レスティアは首を振る。
(彼のことなんか、関係ないわ)
 その後は他愛もないお喋りを楽しみ、また会うことを約束してイラティは部屋へ戻っていった。
「もっと資料を読まないと」
 楽しい時間は、あっという間だった。誰もいなくなった部屋でレスティアは大きく息を吐き、額を押さえて俯いた。
 最近はずっと考え込んでいたせいが、夜になると頭痛がする。
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