亡国の王女と覇王の寵愛
 無理をしないように、大切に育てられてきた身体はあまり丈夫ではないのに、少し根を詰めすぎたかもしれない。
 訪れたメルティーに夕食を断り、早々に寝台に潜り込む。
 きっと寝不足だったせいもある。ゆっくりと休めば少しはよくなるはずだ。
 視界の隅に中庭が見える。眠りに落ちる瞬間、レスティアは、昨日見たあの月明りを思い出していた。
 月光に照らされて、立ち尽くす彼の姿を。

「ん……」
 だから微睡みの中で目の前にいるジグリットの姿を見たとき、まだ夢の続きを見ているのだと思っていた。
 大きな掌が額に当てられる。
 冷たくてとても心地良い。
「熱があるな。何か食べられるか?」
 ぼんやりとした意識の中に入り込んで来る声に首を振り、冷たさを求めて額に当てられていた手に自分から顔を寄せる。
(冷たくて、気持ちいい……)
 その心地良さに浸りながら、レスティアは目を閉じた。
 祖国が攻め滅ぼされて、ひとりになってからずっと気を張り詰めていた。
 きっと、とても疲れていたのだ。
 熱があるせいで意識が朦朧としていて、縋り付いた腕がとても安心できるような錯覚に陥る。
 ここにいれば、きっと大丈夫だと。
 誰かの溜息が聞こえたような気がしたが、レスティアの意識はそのまま眠りに落ちていった。
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