亡国の王女と覇王の寵愛
第三章

求婚

 目が覚めたときにはもう、頭痛は消えていた。
 視線だけを左右に巡らせてみると、空がうっすらと白くなっているのが見える。
 夜が明けようとしていた。
 夕食を断り、寝台に入ったところまでは覚えている。
(あのまま、寝てしまったのね)
 不快さは消えていた。
 窓を開けて、新鮮な朝の空気を吸えばもっと気分がよくなるだろう。そう思って身体を起こそうとして、レスティアの胸の上に手が置かれていたことに気が付いた。
「えっ……」
 置かれているというよりも、レスティアがその手を抱き締めて眠っていたようだ。寝台に突っ伏すようにして眠っているひとりの男性。
 長い赤髪が肩を覆っている。
 ふと、冷たい手に頬を寄せたことを思い出す。あの心地良さは、どうやら夢ではなかったようだ。
「……ん? 起きたのか?」
 あまりの驚きに悲鳴さえも上げられないレスティアの目の前で、彼は顔を上げた。
 少し気怠そうな表情。寝台の上に肘をついたまま、まだぼんやりとした視線でレスティアを見上げている。
 彼がこんなに無防備な姿を見せるなんて、思わなかった。
 言葉が出ないレスティアに、彼は言う。
「言っておくが、お前が俺の手を離さなかった。そのせいだ」
「……そ、それにしても女性の寝室に無断で入るなんて」
 寝ている姿を見られたかと思うと、羞恥で頬が赤らむ。抗議すると、ジグリットは不敵な顔で笑う。
「ここは俺の王城だ。俺が入れない場所など、どこにもない」
 何か言おうと口を開きかけたレスティアは、額に手を押し当てられてびくりと身体を震わせた。
「……熱は下がったようだな。たしかに真実を知れとは言ったが、あまり無理はするな」
「あなたに言われたからではありません。私が知りたいと思ったからです」
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