亡国の王女と覇王の寵愛
「先ほども言ったが、お前の価値は真実を追求できる強さだ。それこそが俺が妃に求めるものでもある。レスティア、自分の意志で真実に辿り着け。どうしてあの国が滅びなければならなかったのかを、見つけ出すのだ」
「ひとつだけ、聞かせて」
 レスティアはジグリットの目を見つめる。
「私の両親を、殺したのはあなた?」
 決めたのは、自分の意志。
 もしそうだったとしても、グスリール王国に生きていた人々のために彼の手を取るだろう。それでもこれだけは、彼自身の口から明確な答えが欲しかった。
「理由はいらない。もしあなたではなくても、仇が誰なのかは聞かないわ。だからそれだけ聞かせて」
「……」
 ジグリットは決して視線を反らさなかった。まっすぐにレスティアを見つめ、そうして彼女の頬に手を伸ばす。
「お前の両親を殺したのは、俺ではない。だがそれを信じられるのか?」
 告げられた言葉に、心の中で安堵する。
 たとえ揺るがないと決めていても、両親の仇を夫にするのはつらいものがあった。
「信じるわ。だって私に真実を知れと言ったのはあなただもの。すぐにわかってしまうような嘘を、あなたが言うとは思えない」
 彼はそんな小さな人間ではないはずだ。
(それに途中から何となく、あなたではないような気がしていたから……)
 思い出してみればあの時、レスティアの目の前に現れたジグリットは剣を手にしていたが、その剣に血は付いていなかった。
 そして彼が率いていたのはヴィーロニアの正規軍だ。
 レスティアを連行し、両親を殺したと告げたのは、平民だが間違いなくグスリール王国の者だった。
(ヴィーロニア軍が侵略してきたのは事実。でも、もしかしたらそれに乗じて、何かしようと企んだ者達がいたのかもしれない)
 調べてみれば、こんなに何度も反乱が起こっていたのだ。
 華々しい式典に国中が浮かれていたあのときが好機だと思った者がいても、不思議ではない。
 これもまた、歴史を知らなければ辿り着けなかった真実なのかもしれない。
 たとえ両親を殺したのは彼ではなかったとしても、祖国に侵略したヴィーロニア王国の王であることには変わりがない。
 侵略者の妻になったと知れば、憤る者も少なくないだろう。
(それでも私はもう決めたわ。この人の隣で生きると)
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