亡国の王女と覇王の寵愛
「今日からこの部屋で暮らせ」
ジグリットはそう言うと、部屋の扉を開いた。
王女だった頃と変わりがないくらい広い部屋だ。
白を基調とした調度品はよく見れば細かな彫刻が施されていて、豪奢ではないが上等の品であることがわかる。
床には柔らかな緋色の絨毯。寝台も今までの倍以上に広い。
どうしてこんなに美しい部屋を用意してくれたのだろう。だがそれを尋ねる前に、ジグリットはゆっくり休むように言い残すと、レスティアを置いて立ち去ってしまった。
「レスティア様、よろしいでしょうか?」
だが彼が立ち去ると同時に、部屋の扉を叩く音がした。
聞こえてきた声は、レスティア付きの侍女メルティーのものだ。
「ええ、かまわないわ」
その声に答える。
レスティアの許可を得て入室したのは、彼女ひとりではなかった。
いろいろな歴史の資料を集めてくれたミレンに、女性があとふたり。さらに医師のような壮年の男性がひとりと、その助手の女性もいた。メルティーを先頭に次々と入室した彼女達は、レスティアの前に並ぶ。
戸惑いながら視線をメルティーに移すと、彼女は並んでいる人達の紹介をしてくれた。
男性はやはり医師であり、その助手とミレン以外の他の女性は、レスティアの身の回りの世話をする侍女だった。
ジグリットは身体があまり丈夫ではないレスティアのために、専門の医師を付けてくれたようだ。彼女達はひとりひとり丁寧に挨拶をすると、部屋を出て行く。
残されたのは侍女のメルティーだけだ。
「どうして私に、あんなにたくさん人が……」
囚われの身にはあまりにも豪奢な部屋に、多くの付き人。メルティーに素直に疑問をぶつけると、彼女は微笑んだ。
それはいつも無表情だったメルティーが、初めて見せた笑みだった。
「レスティア様がこの国にとって、とても大切な方になられたからです」
「大切って、私はただの亡国の王女よ」
「ですがレスティア様はいずれ、この国の王妃になられます」
「あ……」
たしかに正妃にすると言われ、それを承諾した。
国王の結婚をそう簡単に決めてもいいのかと思うが、あのジグリットが誰かに許可を求める様子など想像もできなかった。きっと彼が決めたのならば、もうそれが決定事項なのだろう。
ジグリットはそう言うと、部屋の扉を開いた。
王女だった頃と変わりがないくらい広い部屋だ。
白を基調とした調度品はよく見れば細かな彫刻が施されていて、豪奢ではないが上等の品であることがわかる。
床には柔らかな緋色の絨毯。寝台も今までの倍以上に広い。
どうしてこんなに美しい部屋を用意してくれたのだろう。だがそれを尋ねる前に、ジグリットはゆっくり休むように言い残すと、レスティアを置いて立ち去ってしまった。
「レスティア様、よろしいでしょうか?」
だが彼が立ち去ると同時に、部屋の扉を叩く音がした。
聞こえてきた声は、レスティア付きの侍女メルティーのものだ。
「ええ、かまわないわ」
その声に答える。
レスティアの許可を得て入室したのは、彼女ひとりではなかった。
いろいろな歴史の資料を集めてくれたミレンに、女性があとふたり。さらに医師のような壮年の男性がひとりと、その助手の女性もいた。メルティーを先頭に次々と入室した彼女達は、レスティアの前に並ぶ。
戸惑いながら視線をメルティーに移すと、彼女は並んでいる人達の紹介をしてくれた。
男性はやはり医師であり、その助手とミレン以外の他の女性は、レスティアの身の回りの世話をする侍女だった。
ジグリットは身体があまり丈夫ではないレスティアのために、専門の医師を付けてくれたようだ。彼女達はひとりひとり丁寧に挨拶をすると、部屋を出て行く。
残されたのは侍女のメルティーだけだ。
「どうして私に、あんなにたくさん人が……」
囚われの身にはあまりにも豪奢な部屋に、多くの付き人。メルティーに素直に疑問をぶつけると、彼女は微笑んだ。
それはいつも無表情だったメルティーが、初めて見せた笑みだった。
「レスティア様がこの国にとって、とても大切な方になられたからです」
「大切って、私はただの亡国の王女よ」
「ですがレスティア様はいずれ、この国の王妃になられます」
「あ……」
たしかに正妃にすると言われ、それを承諾した。
国王の結婚をそう簡単に決めてもいいのかと思うが、あのジグリットが誰かに許可を求める様子など想像もできなかった。きっと彼が決めたのならば、もうそれが決定事項なのだろう。