亡国の王女と覇王の寵愛
今まで読んだたくさんの歴史書から考えても、滅ぼした国の王族の血は絶やすのが侵略した側の常だ。
もしかしたら夫となった人が、幼馴染の従兄を殺してしまうかもしれない。ふいに目の前が暗くなったように感じ、レスティアは咄嗟にジグリットにしがみついた。
「レスティア?」
しっかりと抱き止めてくれた腕は、やはり冷たかった。
それでもレスティアはその腕に縋る。
真っ青になっている彼女を抱き上げて、ジグリットはそのままレスティアの部屋まで戻った。部屋の外で待機していた女騎士が、慌ててふたりの後を追う。
周囲が騒がしい。
すべてはどこか遠くの出来事のようで、ただ自分を抱き上げてくれるジグリットの腕に縋りながら、目を固く閉じていた。
部屋に戻ると蒼白になった彼女を見て、侍女のメルティーが温かいお茶を持ってきてくれた。ジグリットは彼女の身体を寝台の上にそっと置き、メルティーが持ってきてくれたお茶をレスティアに手渡す。促されて口に含むと、優しい香りと温かさが少しずつ心を落ち着けてくれた。
少し顔色もよくなったのだろう。
傍に付き添っていたジグリットが安堵の息を吐くのを感じた。彼は長い赤髪を少し邪魔そうに背後に払うと、まるで宥めるように優しく背を撫でる。
「驚いたようだな。すまなかった。彼が何者なのかだいたいの検討は付いていたが、どうしても確認する必要があった」
祖国が滅びたあのときを、思い出させてしまったと思っているのだろう。慰めるように肩を抱くジグリットに、レスティアは思い切って尋ねた。
「あの……。ディア兄様は、これからどうなるのでしょうか」
兄様、と口にすると、ジグリットの表情がほんの少し和らいだような気がした。
「ディアロスはお前の従兄だったな」
「はい。私にとっては幼い頃から優しくしてくれた、兄のような存在なのです」
「……兄、か」
小さくそう呟いた彼は、考え込むように目を細めている。
「ディア兄様ならば、きっと私よりも早く真実に気が付くはずです。私などよりもずっと、国民のためを思って行動していたのです」
ディアロスが離宮の建設に強固に反対しているのだと、父がぼやいていたことがあった。それに建国記念の式典に市民を招いたりもしていた。浪費することしか考えていなかった王族よりもずっと、あの国のために動いていた人だ。
もしかしたら夫となった人が、幼馴染の従兄を殺してしまうかもしれない。ふいに目の前が暗くなったように感じ、レスティアは咄嗟にジグリットにしがみついた。
「レスティア?」
しっかりと抱き止めてくれた腕は、やはり冷たかった。
それでもレスティアはその腕に縋る。
真っ青になっている彼女を抱き上げて、ジグリットはそのままレスティアの部屋まで戻った。部屋の外で待機していた女騎士が、慌ててふたりの後を追う。
周囲が騒がしい。
すべてはどこか遠くの出来事のようで、ただ自分を抱き上げてくれるジグリットの腕に縋りながら、目を固く閉じていた。
部屋に戻ると蒼白になった彼女を見て、侍女のメルティーが温かいお茶を持ってきてくれた。ジグリットは彼女の身体を寝台の上にそっと置き、メルティーが持ってきてくれたお茶をレスティアに手渡す。促されて口に含むと、優しい香りと温かさが少しずつ心を落ち着けてくれた。
少し顔色もよくなったのだろう。
傍に付き添っていたジグリットが安堵の息を吐くのを感じた。彼は長い赤髪を少し邪魔そうに背後に払うと、まるで宥めるように優しく背を撫でる。
「驚いたようだな。すまなかった。彼が何者なのかだいたいの検討は付いていたが、どうしても確認する必要があった」
祖国が滅びたあのときを、思い出させてしまったと思っているのだろう。慰めるように肩を抱くジグリットに、レスティアは思い切って尋ねた。
「あの……。ディア兄様は、これからどうなるのでしょうか」
兄様、と口にすると、ジグリットの表情がほんの少し和らいだような気がした。
「ディアロスはお前の従兄だったな」
「はい。私にとっては幼い頃から優しくしてくれた、兄のような存在なのです」
「……兄、か」
小さくそう呟いた彼は、考え込むように目を細めている。
「ディア兄様ならば、きっと私よりも早く真実に気が付くはずです。私などよりもずっと、国民のためを思って行動していたのです」
ディアロスが離宮の建設に強固に反対しているのだと、父がぼやいていたことがあった。それに建国記念の式典に市民を招いたりもしていた。浪費することしか考えていなかった王族よりもずっと、あの国のために動いていた人だ。