亡国の王女と覇王の寵愛
 メルティーに、続きは夕食後にして下さいと本を取り上げられ、食欲はなかったが仕方なく出されたものを食べた。
 野菜や果物を中心とした、あまり重くない料理。
 ひとつひとつの量は多くないが、その分品数を増やしているようだ。食の細いレスティアのために、色々と考えてくれたのだろう。
 溺愛されていた王女時代は、気遣って貰えるのは当たり前のことだったが、こうして改めて思えば有り難いものだったと思い知る。
 それなのに感謝の言葉を伝えたこともなかった。
(……私、なんて嫌な人間だったのかしら)
 メルティーに料理人に感謝の気持ちを伝えて欲しいと頼むと、彼女はすぐに承知してくれた。それから間もなくして焼き立てのパイを持ってきてくれた。料理人はとても感激したようで、そう報告してくれるメルティーも嬉しそうだった。
 まだ温かいパイを食べ、それからまた本を読んでいると、来客を告げられた。
 イラティだった。
 ディアロスの様子を報告するというジグリットの提案は、今日から有効だったようだ。
「なんだかいい匂いですね」
 まだ焼き立てのパイの匂いが残っていたのだろう。
 メルティーに頼んでパイを切り分けてもらい、イラティに勧めると、彼女は嬉しそうに受け取った。
「ディアロス様に、少しお会いしました」
 メルティーが入れてくれたお茶を一口飲むと、イラティはそう切り出した。
「あのような狭い部屋に閉じ込められているのは、お気の毒ですね」
 忠告や、助言。色々と手助けをしてくれたイラティだったが、今まで彼女が語る言葉に、ここまで感情がこもっていたことなど一度もなかった。何だか理由のわからない不安を覚えて、レスティアは無意識に唇を噛み締める。
「あの、兄様はどんな様子でしたか?」
「何事か考え込んでいるようでした。食事にも手をつけていないようです」
「そうですか。でも、兄様ならきっと……」
 自分も最初、食事さえもを拒んでいたことを思い出す。
 きっと同じような心境なのだろう。
 直接、話をすることができないのがもどかしい。
 だがジグリットが決めたことに、逆らうつもりはなかった。彼には考えがあるのだろう。レスティアもそんなジグリットを信頼している。
 それからもイラティは毎晩レスティアのもとを訪れ、ディアロスがどう過ごしているか話してくれる。
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