亡国の王女と覇王の寵愛
 リステは内戦によって。
 グスリールは革命によって。
 東の国、タジニー王国にもきっと、何らかの原因があったのだろう。
 内戦や革命によって滅んだ国は、きっと無秩序の混乱したものになるだろう。町は焼かれ、多くの人が命を落とす。
 彼が滅ぼしたのではない。
 国はもう滅んでいたのだ。
 だからジグリットはその前に国を制圧し、支配下に置いた。
 きっと他国に生きる者達のためだけではないだろう。隣国が混乱に陥れば、ヴィーロニアにも少なからず影響が出る。
 それでもレスティアは思う。
 理由はそれだけではなかっただろう、と。
 彼は、王族の生き残りを王城に連れて帰り、その資質を問う。
 王国を立て直せる人物なのかどうか。きっとイラティにもレスティアにしたように、多くのことを語り、歴史を学んで自らの過ちに気付くように仕向けたのだろう。
 けれどイラティは逃亡してしまった。
 ディアロスと一緒に。
 ミレンの言葉はきっと正しい。
 ジグリットはリステ王国の復興を断念し、その国に残された人達をヴィーロニアの国民とするだろう。かつてタジニー王国と呼ばれた土地が、今はヴィーロニアの領土であるように。
 祖国が忘れられないと言っていたイラティは、祖国復興の芽を自分で摘み取ってしまったのだ。
(やはりあの人は、ただ私欲のために動いていた侵略者などではなかった……)
 ジグリットとディアロス。
 どちらが正しいかなんて、もうレスティアの中では答えが出ていた。
 ジグリットを信じよう。
 彼の言っていることは、いつだって正しい。
 グスリール王国はこのまま消滅してもいい。あの国に暮らす人達がしあわせに過ごせるのならば。そしてこのヴィーロニアの王妃として、グスリールだけではなくすべてのヴィーロニアの民が、しあわせになれるように努力していこう。
「……ありがとう。私はこれでやっと、真実に辿り着いた気がします」
 四方に立ち並ぶグスリール王国の本を眺めながら、レスティアは噛み締めるようにそう告げた。
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