亡国の王女と覇王の寵愛
「ある先王の取り巻きのひとりが、自分の娘を次の王妃にしようとして王に差し出したようです。娘が、亡き王妃にとても似ていると言って関心を惹きつけようとしました。実際には、あまり似ていなかったのでしょう。王は激怒し、その娘を無残に殺してしまったのです」
その後も次々に貴族の娘を召し上げ、王妃に似ていないと喚き立てて処刑した。
狂った国王を、止められるものは誰もいなかった。
ジグリットは最初の娘を殺害した時に国王を厳しく諫め、不興を買って投獄されていたからだ。
王太子でさえ、その有り様なのだ。
他の者が意見などしたら、すぐに殺されてしまうかもしれない。そう考えた貴族達は次々に自分達の領土に逃げ帰った。
人気のなくなった王城を、血塗れの剣を手にしたまま彷徨う狂気の王。
このままではこの国は破滅してしまうと、志の高かった若い貴族達は危険も省みずに決起して王城に押しかけ、ジグリットを助け出した。
「最初はジグリット様も、狂人と化した先王を幽閉するだけのつもりでした。でも暴れ狂う先王を取り抑えることは容易ではなく、犠牲者は増えるばかりでした」
自分の手で狂った父を斬ると、決意をするまで彼も悩み抜いたようだ。それでも、これ以上罪のない者の命を奪わせるわけにはいかないと覚悟を決めた。
ヴィーロニア王国の王太子として、この国に生きる多くの人々のために。
「この国を地獄のような有り様にするよりは、自分が地獄に落ちるほうがいい。ジグリット様はそう言っていたと聞いています」
その間際に先王が遺した言葉が、あの地獄の王なのか。
「地獄の王というのは、犯した罪があまりにも重く、自分だけではなく周囲の者も巻き添えにして地獄に落ちる者と言う意味です。狂っていたとはいえ、父をその手で殺さなければならなかったジグリット様の心に、その言葉は深く刻み込まれてしまったのでしょう」
罪悪感につけ込むように、呪いの言葉は浸透していく。
彼の心の奥へと。
いくら親殺しが大罪とはいえ、非があるのはあきらかに先王。それを討ったのはそれほどの罪なのか。
「私は先王の死について調べました。この国の歴史に、書かれていない事実があることが気になったのです。でもそれが原因で、両親に疎まれてしまいました。人の秘密を嗅ぎ回るような娘に育てた覚えはない。そう言われて、追い出されたのです。そんな私を拾ってくださったのが、ジグリット様でした。ですから私を殺すと脅したのはジグリット様ではありません。私の、実の両親です。……親が子を殺すのは罪にならないなんて、不公平ですよね」
その後も次々に貴族の娘を召し上げ、王妃に似ていないと喚き立てて処刑した。
狂った国王を、止められるものは誰もいなかった。
ジグリットは最初の娘を殺害した時に国王を厳しく諫め、不興を買って投獄されていたからだ。
王太子でさえ、その有り様なのだ。
他の者が意見などしたら、すぐに殺されてしまうかもしれない。そう考えた貴族達は次々に自分達の領土に逃げ帰った。
人気のなくなった王城を、血塗れの剣を手にしたまま彷徨う狂気の王。
このままではこの国は破滅してしまうと、志の高かった若い貴族達は危険も省みずに決起して王城に押しかけ、ジグリットを助け出した。
「最初はジグリット様も、狂人と化した先王を幽閉するだけのつもりでした。でも暴れ狂う先王を取り抑えることは容易ではなく、犠牲者は増えるばかりでした」
自分の手で狂った父を斬ると、決意をするまで彼も悩み抜いたようだ。それでも、これ以上罪のない者の命を奪わせるわけにはいかないと覚悟を決めた。
ヴィーロニア王国の王太子として、この国に生きる多くの人々のために。
「この国を地獄のような有り様にするよりは、自分が地獄に落ちるほうがいい。ジグリット様はそう言っていたと聞いています」
その間際に先王が遺した言葉が、あの地獄の王なのか。
「地獄の王というのは、犯した罪があまりにも重く、自分だけではなく周囲の者も巻き添えにして地獄に落ちる者と言う意味です。狂っていたとはいえ、父をその手で殺さなければならなかったジグリット様の心に、その言葉は深く刻み込まれてしまったのでしょう」
罪悪感につけ込むように、呪いの言葉は浸透していく。
彼の心の奥へと。
いくら親殺しが大罪とはいえ、非があるのはあきらかに先王。それを討ったのはそれほどの罪なのか。
「私は先王の死について調べました。この国の歴史に、書かれていない事実があることが気になったのです。でもそれが原因で、両親に疎まれてしまいました。人の秘密を嗅ぎ回るような娘に育てた覚えはない。そう言われて、追い出されたのです。そんな私を拾ってくださったのが、ジグリット様でした。ですから私を殺すと脅したのはジグリット様ではありません。私の、実の両親です。……親が子を殺すのは罪にならないなんて、不公平ですよね」