イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】

「あのね、ウチの学校、同じ教科で二回続けて赤点取ると親が呼び出されるの。でね、今回の数学のテストで二回目の赤点取っちゃったの~」

結構ヤバい話しなのに、環ちゃんはまるで他人事のように笑いながらそう言うと、上目遣いで零士先生を見つめ、顔の前で拝むように両手をパチンと合わせた。


「常務さん、お願い! ママの代わりに呼び出されてくれない?」

「はぁ? なんだそれ?」


さすがの零士先生も呆気に取られていたが、環ちゃんは構わず捲し立てる。


「赤点のことがバレたら、私、ママに殺されちゃう~。だから先生に、ママは仕事が忙しいからパパが来るって言っちゃったの」

「先生にそんなこと言ったのか?」

「うん、ダメ?」


呆れた……そんなとんでもないお願いを零士先生が聞くはずないじゃない。


そう思ったのだけど、環ちゃんの頭を撫でた零士先生が「仕方ないなぁ」なんて言うから、思わずふたりの会話に割り込んでしまった。


「ちょっ……常務、まさか本当に環ちゃんの父親のフリして学校に行くつもりじゃないでしょうね?」

「んっ? そのつもりだが?」

「なっ……そんなの絶対ダメです! 先生にバレたらどうするんですか!」


そうだよ。悪巧みがバレて環ちゃんが叱られるのは自業自得としても、いい大人の、それも春華堂の常務がグルだったってことが先生に知れたら大恥をかくだけじゃ済まない。


でも、ふたりはあっけらかんとしていてまるで罪の意識がない。それどころか環ちゃんは「絶対にバレないって!」と心配する私を笑い飛ばす。


その自信満々の理由は……

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