イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】

そんな言葉使わないで欲しい。今の私にとって"お別れ"は、完全にNGワードだ。しかし当然ながら、零士先生はそれを知らない。


『落ち着いて絵が描けるいいアトリエだったが、仕方ない。そういうワケだから、絵の方も次で完成させるつもりだ。これでもう絵を描くこともないだろうなぁ……』


えっ、次で終わり?


しんみりしている零士先生を慰めなきゃと思ったけど、私の頭の中では"疑似恋愛"という世にも恐ろしい言葉がリピートされ、それどころじゃない。


「……じゃあ、もうモデルは終わり?」

『あぁ、これで希穂の借金もめでたく完済だ。嬉しいだろ?』


イヤだ! 全然嬉しくない!


そう叫びそうになり、慌てて言葉を呑み込むと耳に押し当てたスマホから『ラストは週明けの月曜日だな』って吹っ切れたような零士先生の明るい声がする。


月曜日まで後四日だ。四日後に絵が完成したら、私達は……


この時点で私の思考は、輝樹君の言っていた"悪い予感"とやらに完全にマインドコントロールされていた。


ネガティブキャンペーン絶賛開催中状態で電話を切り、ベッドの上で自分の体をギュッと抱き締めて押し寄せてくる不安に耐えていたら、いつの間にか眠ってしまったようで夢を見た。


目が覚めると枕が涙でぐっしょり濡れているくらい、とても切ない夢を……


それは、零士先生と薫さんの結婚式の夢……幸せそうなふたりの横で環ちゃんが微笑んでいる夢だった。

< 161 / 237 >

この作品をシェア

pagetop