イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】
姿勢を正し、深々と頭を下げると零士先生の低い声が頭上から降ってくる。
「だいたい、その女性が裸婦画のモデルだというのも疑わしい。もしこれが詐欺だったらどうする?」
予想外の言葉に思わず顔を上げ、大きく目を見開いて零士先生を凝視した。
「詐欺?」
「あぁ、そうやってお涙ちょうだいのストーリーで絵を安い値段で手に入れ転売する……可能性がないワケじゃない」
なんてこと言うの? 婦人の純愛をそんな風に勘ぐるなんて……酷い……
怒りが爆発して反論する私をシラッとした顔で眺めていた零士先生だったが、急に口を開き、とんでもないことを言い出した。
「そんなにその女性にあの裸婦画を売りたいのなら、差額分の百万はお前が出すんだな。そうすれば喜んであの絵を売ってやる」
「えっ……」
「信用できる相手なんだろ? だったらお前が残金を立て替えて払ってやれ」
冷笑しながらそう言い放つ零士先生が心底憎らしく、握り締めた拳がプルプル震える。
零士先生の考えは分かっている。そう言えば私が諦めると思っているんだ。
売り言葉に買い言葉。冷静さを失っていた私は零士先生を真っすぐ見つめ声高らかに宣言する。
「百万は私が支払います!」
言った後でしまったと思ったけど、もう引き下がれない。でもそれは零士先生も同じ。売ると言った以上、その言葉を撤回することはできなかったのだろう。
苦々しい表情でスマホを手にすると私から目を逸らす事無く薫さんに電話を掛け、私に負けないくらい大きな声で指示を出す。
「そこにいるご婦人に裸婦画の売買契約書を書いてもらってくれ」