イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】

一瞬、零士先生が何を言っているのか分からずポカンとしてしたが「あのばあさんに、まんまとやられたな」の一言でその意味を理解し、鳥肌が立った。


「まさか……詐欺?」

「そういうことだ。今朝、故意にしている大阪の美術商の主人から電話があって、知り合いの美術収集家がいい絵を手に入れたから見て欲しいという査定依頼があったそうだ。

一目見て俺が一ヶ月前に競り落とした作品だと分かり、妙に思って入手先を聞くとあまりいい噂を聞かないブローカーから買ったと言うので、確認の為、俺に連絡をくれたんだ」


つまり、あの裸婦画は婦人からブローカーの手に渡り、大阪の美術収集家に売られたってこと……


頭の中が真っ白になり、全身から気持ちの悪い汗が噴き出してくる。


「じゃあ、恋人の絵だというのは……」

「全てハッタリ。おそらくあのばあさんとブローカーはグルだな」


そんな……あの感動の話しは全部作り話しだったの?


ショックで手がプルプル震え、喉が詰まって言葉が出ない。


「まぁ、投資目的で絵を転売するってのはよくあることだ。でもな、今回、あのばあさん本人は三百万の絵を二百万で手に入れ、元値の三百万で美術収集家に売り渡している。

もちろん美術収集家もある程度の知識はあるから妥当な金額だと納得して購入したんだろう。つまりあのばあさんは、涙ポロリでお人好しのお前を騙し、いとも簡単に差額の百万を手に入れたってことだ」

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