イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】

――午後七時


前回同様、春華堂近くのカフェで軽く夕食を済ませ、矢城ギャラリーに向かう。だが、今回は私の方が早かったようで寒々としたギャラリー内はシンと静まり返っていた。


昔の建物だから機密性が低く、相変わらずよく冷えている。


なので、先に部屋を暖めておこうと五階の部屋に上がり、暖房がきいてきたのを見計らって素早くドレスに着替えた。そして緊張気味に零士先生を待っていたんだけど、気付けばさっきからため息を連発している。


また零士先生とふたりっきりで数時間過ごさなきゃいけないと思うと正直、気が重かった。


それにしても零士先生遅いなぁ~もう八時だ。このまま来なかったラッキーなんだけど……なんて思いつつ、またため息を付く。


あと一時間待って来なかった帰ろうと決め、スマホの恋愛シミュレーションゲームを始めるも、三十分もすると飽きてきて、大あくびをしながらソファーの上に寝転がった。と、その時、白い布が掛けられたキャンバスが視界に入る。


「そういえば、どんな風に描かれているのか見てなかったな……」


気になり出したらもう我慢できない。引き寄せられるようにキャンバスの前に立っていた。


零士先生の目に映った私がここに居るんだ……


ゴクリと生唾を飲み込みドキドキしながら布に手を伸ばしたのだけど……


「バカ! 見るんじゃない!」

「ひっ……」


予期せぬ怒鳴り声に驚き、イタズラがバレた子供みたいにビクッと体を震わせ手を引っ込める。で、恐る恐る振り返ってみれば、そこには怖い顔をした零士先生が立っていた。

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