可愛げのない彼女と爽やかな彼氏
後はやるだけ
みっちゃんとKカンパニーというパイプを見つけた私達F社は、今までの事が嘘のように、Kカンパニーとの業務提携の話を進めていった

お互いの会社の立場上、大っぴらに出来ないが、概ね順調に進んでいると相川くんが言っていた


「神崎係長って凄いのね。相手に有無も言わせず自分のペースに持って行って、双方の利益になるような提案をして、相手をその気にさせるのよ。お陰でうちの会社、予想以上な好条件で契約出来ちゃった」


みっちゃんはそう言って喜んでいた


「後はK貿易と三浦常務ね……」
「進藤係長?どうしたんですか?」


独り言を言っていたら、清水さんに突っ込まれて、何でもないと答えると、あっと言って、清水さんが書類を差し出してきた


「何?これ」
「皆に声掛けて、署名を集めたんです。後は進藤係長に任せます。ほぼ全員分集まってますから」


そう言われて書類をパラパラと捲って中身を確認した私は驚いて清水さんを見た

清水さんは、にっこり笑っていた


「清水さん、これ……」
「進藤係長が、このまま黙って終わる人じゃないのは、私が1番分かってます。負けないで下さい」


泣きそうになるのを必死で我慢した
それほど、この書類は私にとって嬉しいものだった

私がやってきたことは無駄じゃなかったんだ


「係長、泣かないでくださいよ〜」
「うるさいわね」
「私の事、見直しました?」
「何言ってんの。何が『私が1番分かってます』よ。調子に乗りすぎよ」
「ひどい!私、頑張ったのに!」
「何を騒いでるんだ?」


私達が言い合っていると、皆川部長に注意されてしまった


「すいません」
「すいませんでした」


皆川部長に溜め息をつかれて、清水さんと2人で小さくなっていると、相川くんが外出先から戻ってきた


「皆川部長、来週の金曜日の午後なんですが、K貿易とアポとれました。うちの会社に来てもらいます。Kカンパニーの日本支社長も同席してくれるそうです。K貿易はその事は知りませんが」
「ほう。それで?」
「皆川部長から、吉田社長と三浦常務に同席してもらうよう、頼んでもらえますよね?」


相川くんが口角を上げてそう言うと、皆川部長もふっと笑って言った


「それが上司に頼む態度か?分かった。秘書室に連絡しておく。相川」
「なんでしょう?」
「抜かりはないんだろうな?」


皆川部長が念を押すと、相川くんは迷いなく言った


「はい。ありません」


それを聞いて、皆川部長は小さく頷いた


「分かった。思う存分やれ、相川。責任は僕がとる」
「はい」


2人をぼーっと見ていると、宮本くんが小さな声で話しかけてきた


「係長、なんか凄いですね。俺、海外事業部がまとまってる訳がなんとなく分かりました」
「うん。そうだね」


上司と部下が信頼しあって、認めあっている
こんな理想な職場はないだろう


私はふと思いついて、皆川部長に近寄った


「どうした?進藤係長」
「お願いがあります」
「何だ?」
「この書類を社長に提出したいのですが、三浦常務の目の前で」


私はさっき清水さんに貰った書類を皆川部長に見せた
皆川部長はそれを見て、ただ一言呟いた


「凄いな」
「ええ、私もそう思います。うちの清水さんが集めてくれました」
「分かった。好きにするといい」
「はい、それと……」


私は、皆川部長の耳元で囁いた


三浦常務を天国から地獄へ叩き落とす方法を


部屋の中の全員が、興味津々に見ていた
相川くんは、眉を寄せていたけれど……


それを聞いた皆川部長は私を唖然とした顔で見た
私はそれを見てニコリと笑った


「相川」
「何ですか?」
「お前の彼女、恐ろしいな」
「殴られたいんですか?部長」
「そんな訳ないだろう。ま、頑張れよ」
「殴ります」


皆川部長に詰め寄る相川くんを宮本くんが後ろから必死に羽交い締めにしているのを見て、部屋中に笑い声が響いた
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