結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「うん、楽しかったよ。お寿司もすっごく美味しかったし」


パソコンを立ち上げながら当たり障りない感想を口にすると、咲子ちゃんは肩透かしをくらったような顔をする。


「それだけですか? なにも進展なし?」

「あの社長ですから、女性への対応も紳士なんじゃないですか」

「うーん……それもそうかぁ」


氷室くんのなにげないひとことに、咲子ちゃんは不服そうにしつつも頷く。

そうだよね、皆は会社での社長しか知らないからそう思うよね。でも本性は……。

唇を奪われた瞬間の、色っぽい彼の表情や仕草が蘇ってきてしまい、両手で頭を抱える。

ふたりは、進展がなくて私が落ち込んでしまったと思ったのか、「食事しただけでもすごい成果ですよ」と、背中に手を当てて慰めてくれるのだった。


 * * *


結局咲子ちゃんたちは、社長とはただ食事をしただけだと思い込んでいるらしく、その後もつっこまれたことは聞かれずに済んで助かった。

その日も、翌日も、幸い社長と顔を合わせることなく、平和な日々が過ぎていった。

そして、梅雨らしい曇り空が広がる木曜日、三十人ほどが入れるミーティングルームに商品企画部の部長の声が響く。

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