結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
肩の力が抜けた私は、呆れた笑いをこぼしつつ頭を垂れた。


「そういうことかぁ……」

「すみません、余計なことして」

「ううん、正直本気で困ってたから助かっちゃった。ナイスよ」


無表情のまま謝る彼に、私は親指を立てて笑ってみせた。

本当に氷室くんが気づいてくれてよかった。今回ばかりは衝撃が大きすぎて、理系トークに持ち込んで話を逸らすこともできなかったもの。

社長には、『問題ありません』なんて大口叩いてしまったというのに……。まさか彼の言う通り、迫られることになるなんて。

すぐに笑顔が消えて深く息を吐き出す私の顔を、氷室くんが少し探るような瞳で覗き込む。


「大丈夫ですか?」


静かに確認され、先ほどのことを思い返して胸がざわめく。けれど、ひとつ息を吸って気持ちを切り替え、「大丈夫よ」と笑みを向けた。

今はプライベートなことは置いておいて、葛城さんの案内に戻らないと。きっともう社長も戻ってくるだろうし。

わずかに心配そうな顔を見せる氷室くんから離れ、心を無にするために頭の中で円周率を数えながら歩き出した。

何事もなかったようにするのよ、綺代。社長との約束を破ったと思われないように。

キス百回の刑は、なんとしてでも避けなければ……!




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