結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
とりあえず今日のところは話が終わっても、当然いつか決断しなければいけないときが来る。なんだか胃が痛くなりそう……。

葛城さんは氷室くんに首を傾げるだけの軽い会釈をすると、ポケットに両手を突っ込み、鼻歌でも歌いそうな軽い足取りで去っていった。

その後ろ姿を、彼が着ていた白衣を無意識にぎゅっと握りしめて見送る私の横で、氷室くんも同じほうを見つめて問う。


「あの方は?」

「ん……この間、社長と一緒に接待した人」


当たり障りなく答え、とにかく氷室くんの用件を解決しなければと、表情をきりりとさせて彼に向き直る。


「で、聞きたいことって?」

「ありません」

「……は?」


あさっての方向からさらっとそんなひとことが返ってきたため、私はぽかんとしてしまった。

え、『どうしても聞きたいことがある』って言ったよね? どうしちゃったのよインテリくん。

意味がわからず氷室くんを凝視すると、彼は中指で眼鏡を押し上げ、淡々と説明する。


「倉橋さんが相当困ってるように見えたので、思わず声をかけてしまいました」


……嘘、私の状況を察して機転を利かせてくれたってこと? 氷室くんがそんなことをしてくれるとは。

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