結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
私はお目当てのものを指差したまま、彼のひとことでぴたりと一時停止した。

そう言われてみれば、仕事の延長みたいでおかしい気もする。


「あぁ……確かに。じゃあ、泉堂さ──」

「名前」


ビシッと指定され、肩をすくめた。

名前ですか……。別になにも難しいことはないのに、一気にハードルが高くなったような気がするのはなぜなんだろう。

いっそ、お母さんみたいに“タツくん”と呼んでみようかとも思ったものの、彼の瞳がじっとこちらを見つめるのでふざけられなくなる。


「た、達樹さん」


呼んだそばから、慣れないのと恥ずかしいのとで顔が熱くなるのがわかり、俯き気味で目線だけ上げた。

社長、もとい達樹さんは、満足げな表情でこんなことを言う。


「いいね、結構クる」

「はい?」


なにが来るというのか、意味がわからず首をかしげる私を見て、彼はクスッと笑っただけ。そして、とても自然に私の手を取り、気球のアトラクションのほうへと歩き始めた。

……あぁ、こんなことをしていたら諦めようという決心が鈍ってしまう。愛しいこの手を、離したくない。

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