結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
だんだん笑顔の覇気がなくなり、目を伏せて呟いた。

静かに聞いていた達樹さんは一瞬眉根を寄せ、聞き取れなかったのか意味がわからないのか、小首をかしげる。

「綺代?」と声をかけられ、強く拳を握った私はぱっと顔を上げた。押し黙る彼をまっすぐ見つめ、精一杯の笑みを作る。


「本当にありがとうございました。少しの間ですけど、達樹さんの大切な人になれたみたいで……幸せでした」


冗談っぽく言ったはずなのに、寂しさが一気に込み上げてくる。目のふちに今にもこぼれ落ちそうなほど涙が溜まり、下唇を噛みしめてなんとか堪える。

困惑する達樹さんが口を開こうとしたそのとき、ちょうど乗り場に着いてドアが開かれた。

私は俯きながら、「もう一周」と呟く。

そのひとことで、立ち上がるのをやめた彼を確認した私は、ドアが閉められる直前に動き出した。


「……してきてください、すみません!」

「は!?」


愕然とする達樹さんに構わず急いで飛び降りると、驚く係員のお兄さんが持つ取っ手を一緒に掴む。


「おい待て、綺代──!」


慌てる達樹さんの声が、ガチャンと閉めたドアの向こうに閉じ込められた。

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