結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
再び上昇していくカプセルと、その中からなす術なくこちらを見下ろす不機嫌さMAXの彼に向かって、私は顔の前で両手を合わせて“ごめんなさい”のポーズをする。

あぁ、勢いでやってしまった……。観覧車にひとり置き去りにするとか、我ながらヒドい。絶対嫌われただろうな。

係員のお兄さんも、私たちの状況が穏やかじゃないことは見て取れるだろう。このあと降りてくる達樹さんが不憫な目で見られるかもしれないと思うと、本当に平謝りしたい。

でも、泣くところを見られたくなかったし、あのまま一緒にいたら元カノさんの話も聞かされていたかもしれない。だから、ひとりにさせてほしかった。

嫌われたほうがいいんだ。そうすれば、自然と諦めがつくはず。


観覧車乗り場を出て、走ってゲートに向かい、魔法の国をあとにする。ひとりでとぼとぼと駅に向かって歩いているうちに、塩辛い雫がいくつも頬を伝っていた。

ごめんなさい、達樹さん。最高の誕生日プレゼントを用意してくれたのに、こんなことにしてしまって。

でも、罪悪感はものすごくあっても後悔はしていない。私はもう、仕事以外では彼と係わらないと決めたのだから。


「失恋って、キツイいな……」


つい口からこぼれた実感がこもる独り言が、星が見えない夜空に吸い込まれていった。




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