結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
「媚薬チョコだって言わなければいいんですよ。ただの試食ってことで普通に食べさせて、社長がムラムラしてきた感じだったら、そのまま今度は綺代さんが食べられちゃってくださいっ」

「なにうまいこと言ってんのよ……」


語尾にハートマークがついているような調子の彼女だけど、社長の相手が私なんかじゃ想像することすら申し訳ない。

背徳感と羞恥心で悶える私をよそに、氷室くんは素知らぬ顔で媚薬チョコレートの話を進めていく。


「その前に、どう作るかが問題です。僕が考えたのは、幸福感や高揚感を得る脳内ホルモンのエンドルフィンを分泌する食品を、チョコレートと組み合わせてみるという方法なんですが」

「そっか! チョコレートを食べたときにもエンドルフィンは分泌されるから、さらに効果的にできそうですね」


地味に盛り上がるふたりの小難しい話を耳に入れながら、私はもそもそと食事を進める。

これが本当に実現できたとして、意中の人に使うというのはなんだかズルいような気がしてきた。

卑怯な手を使って相手の心を手に入れたとしても、それは自分自身を本当に愛してもらえたことにはならないのだから。

でもそうでもしなければ、きっと私にはいつまで経っても恋人なんてできない。

だから、やるしかないのだ。

揺らぎそうになった気持ちを持ち直し、とりあえず社長のことを頭の隅に追いやるためにも、休憩が終わるまで研究について討論していた。




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