結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
どう頑張ってもおもしろ可愛いトークができない私に、最後まで優しく接してくれた彼は、『駅まで送りますよ』と言ってくれた。

けれど、私はこれ以上一緒にいてもボロを出してしまうだけのような気がして、お手洗いに寄ってから帰ると口実を使い、お断りしたのだ。

甘利さん、すごくいい人だったけど、きっと私とは合わないわね。

自分に落胆しつつ、ふらふらと回れ右をして本当にお手洗いに向かおうとした、その瞬間。すぐ後ろを通りかかった人に気づかず、ドンッと思いっきりぶつかってしまった。


「きゃっ!」


ぶつかった衝撃で小さめのハンドバッグを落としてしまい、ピカピカに磨き上げられた床に中身が散らばる。相手の姿もよく見ずに「す、すみません!」と謝り、すぐにしゃがんだ。


「こちらこそすみません。お怪我はありませんか?」

「あ、全然、大丈夫です!」


一緒にしゃがんで中身を拾ってくれるその人は、丁寧に声をかけてくれた。

紳士的な対応と落ち着いた低い声色から、顔を見なくても“いい男”なのだろうとわかる。

転がったリップクリームに手を伸ばしたとき、同じく拾おうとしてくれる彼の手と当たりそうになり、動きを止めて反射的に目線を見げていく。

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