結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
一度大きくため息を吐き出して気を落ち着けたらしい彼女は、美しい顔でムスッとしたまま私を見据える。


「ものすっごく不本意だけど、社長に頭を下げられては仕方ありませんからお教えします。間違っても私の顔に泥を塗るようなマネだけはしないでください」

「っ、ど、努力します」


めちゃくちゃプレッシャーをかけられ、怯えながらもそう答えるしかなかった。

私が粗相してしまったら、教えた綾瀬さんのせいに思われかねないもんね。これ以上怒らせたら、冗談じゃなく病院送りにされるかもしれない……。


葛城さんへの印象を良くするためというより、美人(腹黒)秘書の報復をなんとしても避けるために、それから必死に指導を受けた。

出迎えるときから始まり、会食の最中、それが終わって手土産を渡すに至るまでの注意点を聞き、テーブルマナーを教えてもらう。

細かいことまで教えてもらえて、とても勉強になるのだけど……彼女はとにかくスパルタだ。


「これ、なにに使うかわかりますか?」


綾瀬さんは、すでにテーブルにセッティングされているカトラリーの中の、なんとも形容しがたい不思議な形をしたスプーンを指差して質問する。

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