結論、保護欲高めの社長は甘い狼である。
カチコチな身体で表に向かう社長のあとについていこうとすると、個室を出たところで彼は急に足を止めた。ぶつかりそうになり、驚いて見上げた瞬間。


「表情が硬いぞ」

「ぅいっ」


ぶに、と頬をつままれ、間抜けな声が漏れた。緊張しているのがバレたのだろうけど、なぜつまむ……!?

おかしな顔になっているに違いない私を見下ろし、紳士の皮を剥いだ社長は不敵に口角を上げてみせる。


「誰がお前の隣についてると思ってる。失敗したって俺がどうとでもしてやれるから、心配するな」


自信に満ちた頼もしい言葉に、ドキンと胸が鳴った。

……すごい。彼のたったひとことで、張り詰めていたものがゆっくり緩んでいく。


「難攻不落の相手に挑むには、正攻法が通用しないこともある。だから、あえて倉橋を選んだんだ。お前なら、いい変化球を投げてくれそうだから」


頬から手を離してそう言った社長は、意味深な笑みを浮かべて再び歩き出す。

彼の思惑がわかったようで、やっぱりいまいちわからない。私は少し火照った頬に無意識に手を当て、眉根を寄せる。


「今の、具体的に説明してほしいんですが」

「はぁ……これだから頭の硬いリケジョは」

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