彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
私の言葉を遮った主任が話し始めた。


「天ヶ瀬さんには、営業に同行してもらったり、朔也のレストランに一緒に行ってもらったり。……仕事の事もですが関係ないことでも無理を言ってきました」

「いえ、そんなことは……」

「天ヶ瀬さんに仕事の面で成長して欲しかったんです。これからも仕事、頑張ってくださいね」


主任の言いたかったことは、結局仕事の事で。
上司として部下に成長してもらいたかったっていう話だけで。
だってその話をした主任は微笑んで言ってるから。


「それと、飲み過ぎないように」


付け加えられたのは、今度は保護者的な注意ごと。
結局、主任にとって私の存在なんてそんなもの。
わかってるからこそ、余計イライラしてつい声を大きくしてしまう。


「そんなことっ…わかってますっ」


強い調子で言う私を主任は驚いた顔で見る。


「そんなに言うなら、また注意してくれたらいいじゃないですかっ。そんな事しないように見張っててくれたらいいじゃないですかっ」


こんなこと言いたいんじゃないのに。

ただ東京に行って欲しくなくて。
そんな事、無理だって事はわかってる。
だけど口が勝手に言葉を発してしまう。

気づいたときにはポロポロと涙までこぼして叫んでた。


「……できないくせに。そんなこと言わない、で」


言ってること滅茶苦茶で。
しかも泣いたりして、こんなこと言われたら主任だって困る。


私は涙を手でぬぐって、無理やり笑い顔をつくる。


「…アハハ。なんか、すみません。私、やっぱり飲みす――」


そう言っている途中で急に目の前が暗くなって……





なにこれ。
私、主任に抱きしめられてる?





いつかダウンから香ったあの匂いに包まれている。

胸元に思いっきり押し付けられている形で……





「……ごめん」




少し掠れた声で、呟かれたその言葉。

その言葉の意味はわからない。

そしてこうして抱きしめられている意味も。
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