彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
目的地付近に到着したのは四時半すぎ。
さっき話していた水族館の裏手にある駐車場。近くにはカフェもあるから時間までそこでゆっくりする予定らしい。
主任によればこの時期、日が沈むのは大体六時半ぐらい。
その時間まではまだちょっと余裕がある。
私たちはカフェで一時間ほど過ごした後、車まで戻ってきた。


「ここでも見えますが、初日の出の時のように砂浜で見ますか?」


周りを見渡せば駐車場はいつの間にかいっぱいで、車の中で見れないこともないけどやっぱり外のほうがよさそう。
それに、今年の初日の出と日の入りを同じ人と、ううん、主任と見られるなんて……

差し出された主任の左手に、やっぱり少し悲しくなりながらもそっとその手を握った。
今日だけでもこの手を独り占めしていたいから。

砂浜をゆっくり主任と歩く。
日の出の時と違うのは直接繋がれた手。
だんだんと日は傾いてきてあっという間に水平線の間近まで来ている。


「モモ、その服、砂浜に座れますか?」


今日はストレッチの七分丈のデニム。
どこに行くかわからなかったから動きやすい服装でと思ったのは正解だったらしい。
だからフリルの付いたちょっと甘めのトップス、それに合わせてかわいいサンダルを履いていた。

手を繋いだまま並んで座り、夕日が沈んでいくのを見ていた。
日の出の時と同じ、あっという間に海に吸い込まれるように沈んでいった太陽。

もっとゆっくり沈んでくれたら、このままここに並んで座っていられるのに。


いつの間にかあたりは暗くなり同じように夕陽を見ていた人たちもみんな帰っていた。
いつまでもこうしていたいけど、そろそろ帰らないとだよね。
ふと隣を見ると立ち上がろうとしている主任と目が合って、主任は優しく微笑むと私の手を放した。


――――――あぁ夢の時間が終わるんだ


そう思った瞬間、後ろからぬくもりが伝わってくる。

ん?ぬくもり?

主任はさっき立ち上がって、それで……

目の前にまわされている手は、まぎれもなく主任のもので。
私を閉じ込めるようにして、後ろから抱きしめてるのは、主任?

振り向こうとしたその時に、


「モモ、」


耳元で囁かれるその声が、甘く、せつなく、耳に響く。
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