優しさは灰色




「俺はお前が振られるのを待ってたんだ」



そうだろうなって思っていた。

いつも睨んで、私の消しゴムを確認なんかして、他の誰が気づかなくても私にはわかってしまう。

そう思ったけど、私の予想とは違う言葉が落とされた。



「そうしたら、お前はもう、隠さなくていいだろ?」

「っ、」



なにを、言っているんだろう。

鳴瀬は、それじゃあ、まるで私のことを気遣ってくれているみたいじゃないか。

てっきり私が邪魔者なのは周知の事実だから、蹴りをつけるつもりなのだとばかり思っていたのに。

それなのに、違うの……?



「鳴瀬は私のことが嫌いなんじゃなかったの」

「……お前は思った以上にばかだな」



まるで叩くように頭を鷲掴みにされて、無理やり床と睨みあうことになる。



「嫌いじゃない。泣けばいいとは思うけど」

「なにそれ、歪んでる……」



力は強いし、意味がわからないことばかり。

曖昧な言葉に惑わされて、鬱陶しいし、正直ムカつくことが多かった。

だけど髪をかき混ぜる行動が、彼なりの慰めだとわかってしまったから。



「っ、」



ぽとり、ぽとり。

涙の雫がまぶたから離れ、スカートに小さなシミを作った。



しばらくそうしていたところ、鳴瀬は私が貸してあげた消しゴムを取り出した。

そうして、まるであの日の私のように、シャーペンで文字を掘っていく。

想いをさらけ出して、汚れた消しゴムが削れて、白く文字が浮かび上がる。



〝仁〟



くっきりと刻まれた文字を見て、私はわずかに息を吐いた。



不器用な優しさは、白でも黒でもない曖昧な色。

汚れた消しゴム、秘密の感情をなかったことにしてくれる消しゴムみたい。



正直なところ、今すぐ彼の気持ちに応えることはできない。

だけどいつか、君の灰色と、同じ色になれたらいいと思うから。



私の灰色に彼の灰色が混ざりあう。

鳴瀬に差し出された消しゴムを手に取って、私はそっと、笑った。



               fin.






< 11 / 12 >

この作品をシェア

pagetop