今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
「ライばあ、ランチふたり分頼めるか」

「もちろん。ちょっとだけ待ってなさいね」

 頷いてカウンターに腰掛けるカディスの横に慌てて座る。アリーナは状況についていけていなかった。

「行きつけって、本当にここですか?」

「レガッタの食事処には大体行ったが、ここが一番だな」

「皇帝陛下なのに」

「あまり関係ないな」

 カディスはそう言って水の入ったコップに口をつけた。

「っていうか、よく来るんですか? お忍び的なの、結構するとか?」

「ただの侯爵だった頃は、騎士団長をしていたとはいえ街を回るくらいの時間はつくれていた。最近は忙しくて無理だな」

「それでちょっとテンション高いんですね」

「……高いか?」

「はい、割と。……でも、それなら悪いことしましたね」

 心外そうな顔をしたカディスが首を捻ってこちらを見る。

「そんな貴重な時間に、私を連れて来なくちゃいけなくて。お邪魔してすみません」

 別に自分に気を使う必要はないから、と。こちらとしても迷惑だと、暗に告げて。

 暫くアリーナを見つめていたカディスは頬杖をついた。

「……馬鹿が」

 ぼそりと呟き、傷ついたように視線を逸らす。まるで自分が悪いみたいではないか、とアリーナはたじろいだ。どうしてそんな表情をされなくてはいけないのかと、再び口を開いた時──

「はぁい、お待ちどぉさま」

 間延びした声と共に、どん! と2人の前に大皿が置かれる。バゲットにたっぷりの野菜とベーコン、ゆで卵のスライスが挟まっている。

 両手で掴んでも溢れ出してしまいそうで、どうすればいいのかとちらとカディスを見ると、彼は臆面もなく口をいっぱいに開けて齧り付いていた。
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