今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
 ぞくぞくと甘い痺れが首筋から全身を巡る。身体中が震えて、指先までも思うように動かなくなる。

 腰をなぞった指にひくりと肩が揺れる。

「だめ、いま、さ、触らない、で……」

 途方もない、恐ろしいまでの気持ちよさから逃れようとして背が仰け反る。

「……ん……っ」

 声が出るのを抑えられなくなってくる。思考がとろけていく。もういいか、我慢しなくてもいいか、と甘美な誘惑に負けかけた時──するっと牙が抜かれた。

「……え」

 物足りない、と思ってしまった。

 惚けたままの顔で見上げてしまう。顔を真っ赤にしたカディスが呻いた。

「お前な……やめてくれよ、本当に! 俺だってどうにか、理性をだな……」

 こちらを見つめるカディスの瞳が輝いた。蕩けるような熱を孕んで赤く揺らめく。

「興奮、してるんだ……?」

 吸血鬼の瞳が赤く輝く時、それは感情が昂っている時なのだと、少し前に他ならぬ本人が教えてくれたのだ。

「……くそ、言うんじゃなかった」

「そう? 私は嬉しいけどな。わかりやすくて」

「……」

「できれば、言葉でも聞きたいけど」

 カディスが自分をどう思っているのか、嫌という程感じてはいるけれど。それでも、何だかんだとまだ直接『カディス』から言われたことはない。

 カディスはくしゃりと黒髪をかき混ぜた。

「悪い。そうか、そうだった。ちゃんといっていなかったな、俺は」

 アリーナの頬を大きな両手で包み込んで、優しく微笑む。

「俺は、ずっとお前が好きだった。そして今は、それ以上に誰より愛おしく想う」

 少しずつ、大切そうに紡がれる声が震えていた。

「愛している、アリーナ。もうどれだけ嫌がろうと、一生……いや、死んでもお前を離さない」

 そっと探るように唇が重なる。口づけをするのは、『血の盟約』を結んだあの時以来だった。

「私だって、そう……」

 もう一度、深く唇を重ねる。伝わる熱さに、心が震える。

「離さないよ。離せない……お願い。絶対に、もう私の傍からいなくならないで」

「ああ、約束する」

 ぎゅうと強く抱き締められた。アリーナも広い背に両手を回しながら囁く。

「あのね、カディス。私は、カディスのこと全部知りたい」

 カディスの逞しい胸板に頬を押し付ける。

「私、あの時……何も知らないって言われて、その通りだなって思っちゃって。言い返せなかったのが悔しかった。きっと、私が受け入れる覚悟ができてなかったから。それをカディスはわかってたから言わなかったんだよね」

 否定しようとしたのだろう、口を開けたカディスの頬に軽く唇で触れる。

「ごめんね、今まで一人で頑張らせて。そして──ありがとう、私をまた見つけてくれて。これからは私にも一緒に背負わせて。私は全部、カディスだけのものだよ」
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