ケーキ屋の彼

「じゃあ、ここに蝋燭立てますね」


火は男の仕事であるというように、涼は自らその役を引き受ける。


マッチ箱から一本マッチを取り出し、涼は慣れたようにそれで火を点ける。


マッチと箱の擦れる音がその場に響く。


すると、ぼおっと音を立てて火が誕生した。


その火を蝋燭の先端に灯すと、街灯よりも小さくて儚い光が辺りを照らす。


「私はこれがいいわ」


櫻子が選んだものは、情緒ある線香花火。


切れてしまわないように慎重に1本の線香花火を手に取った。


ほどよい風が吹くと、その風でそれが揺れる。


櫻子は蝋燭の火を片手で囲い、花火の先に蝋燭の火をかざすと、それはパチパチと小さく音をたてた。


その様子を見た柑菜も、櫻子と同じものを選び、櫻子の隣に来る。


「可愛いよね、線香花火」


「ええ、小さいけれど美しいわ」


2人は、火花を散らしながら小さく弾ける炎をじっと見つめた。
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