ケーキ屋の彼

「でも、僕、空さんに初めて会ったあの日、かっこ悪かったですよね。敵意むき出しにしてしまった」


「いえ、好きな人に対してはそれくらいがちょうどいいですよ! 僕、あの時の姿を見て本気なんだなって思いました」


「ははっ、そうですね」


涼も隣でうんうんと頷いている。


実は、涼も秋斗のことを初めて知った時に、秋斗に対して嫉妬をしてしまっていたのだ。


自分よりも幼い頃から同じ時を美鈴と過ごしてきた秋斗。


それだけでなく、美鈴の片思いの相手でもあった。


それに、今ではもう過去のことだが、少しだけなんとなく気になっていた櫻子のことも、空という人物を知って少しだけ穏やかではなかった。


美鈴と櫻子、結局やはり涼が好きなのは美鈴だ。


涼と空は似ている。


同じように1番好きな人がいて、だけど振り向いてもらえないと諦めかけてほかの気になる人もできるけれど、やはり心の中にずっといるのは1人だけ。


「俺も、頑張ります」


「涼さんも好きな人いるんですか?」


「ええ、まあ……」


照れ臭そうに視線を外しながら話す涼に、空は肩を叩き『うんうん』と頷いている。


涼は、なんだよ、と言いながら顔を赤くしていた。
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